塵クジラの海

塵クジラの海 (ハヤカワ文庫FT)

塵クジラの海 (ハヤカワ文庫FT)

ニュー・ウェーブSFの旗手の一人であったブルース・スターリングの処女作です.彼はサイバーパンクSFを書く作家として知られていますが,この作品はより古い,サイエンス・ファンタジィと呼ばれる,作風で書かれています.
後のスターリング同様の幻想的ながらも一貫性のある舞台設定はさすが!と感じさせるものがあります.幻想的な塵海や魅力的なヒロインには確かな存在感と現実のものには決して無い違和感とが同居しており,読む者の心を揺さぶります.
唯一惜しむべき点があるとするならば,主人公ニューハウスの行動・言動が非常に「若い」,すなわち40代の中年男がまるで20代の若者のように振舞ってしまっている,という点でしょうか.序文でスターリング本人が「あの頃の私は背伸びしていた」と語っているのはおそらくこうした部分,主人公が自己の投影となるのを嫌ったにもかかわらずその目的を果たせなかったこと,のことなのでしょう.