タクラマカン
タクラマカン (ハヤカワ文庫SF)読了.以下,感想をば少々
近未来世界を描いた小説7篇からなる短編集です.
A Good Old-Fashioned Futureという原題通り,描かれる近未来世界は突拍子も無いファンタジィ世界ではなく,現代と古臭い習慣で結ばれた「我々の子供たちが見るであろう未来社会」に仕上がっています.
招き猫
「贈り物経済」に満ち満ちたユートピアのような明るい社会を描いたファンタジィとして始まり,ホラー風味に終わる短編.低い目線を積み上げることで大きな世界を書き上げる手法に,相変わらずのスターリング節を感じます.
誰か映像化してくれないかな.
クラゲが飛んだ日
ルーディ・ラッカーとの合作.
やや精神分裂気味な構成もラッカー風味だと思えば自然に受け入れることができます.
小さな、小さなジャッカル
この小説を読むには「革命的闘争運動」の知識が必要なのかもしれません.
暴力,思想,資金,人間などが有機的・無秩序的・粘着質的に結合したものを切り取り,未完成のまま放出した,そんな感じの小説です.
聖なる牛
「ハンバーガーが世界を滅ぼす」
肥満のせいではありません.念のため.
ディープ・エディ
旧来の秩序が崩壊し,無政府主義的な状態に移行した西欧を描いた短編で,「自転車修理人」「タクラマカン」とあわせて一続きの物語になっています.
昔は携帯型端末というと王道的B級Sci-Fiガジェットの代表のようなものでしたが,ウェアラブル・コンピュータの実用化が近づく今日では,むしろ来るべき日々にリアリティを与えるツールのひとつであるように思えます.この短編に登場する「スペックスウェア」というメガネ型モバイルギアもエキセントリックなガジェットというよりは神戸あたりで開発されていそうな代物でした.
ヒューゴー賞ノミネート作品です.